油を使わずに唐揚げやとんかつが作れるという調理家電「フィリップス ノンフライヤー」が話題となっている。フィリップス エレクトロニクス ジャパンが2013年4月下旬発売予定で、予想実売価格は2万9800円前後だ。日本輸入代理店の小泉成器を通じて、全国の家電量販店や通信販売などで販売する。
これまでにない新しいタイプの製品だが、その実力を見てみよう。
ノンフライヤーは調理皿が引き出しのようになっており、中のバスケットに素材を置いて調理する。調理皿の上部にヒーターが設置されており、さらにその上部から下に向かって風を送る。バスケット下部にあるヒトデの形をした「スターフィッシュ」デザインが、熱風を上部に巻き上げることで、高速かつ均一に加熱するという仕組みだ。
加熱の際に食材に含まれている油分が浮き出して表面を包み込み、油で揚げたようなサクサクした食感になるとのこと。温度設定は80度ら200度まで20度刻みで、タイマーは1分から30分まで1分刻みで設定できる。22品目のレシピを同梱し、ウェブサイトでも13品目のウェブ限定オリジナルレシピを公開している。ウェブサイトのレシピは随時追加していく予定だ。
フィリップス エレクトロニクス ジャパンのダニー・リスバーグ社長は、「男性用シェーバーなどの『メンズグルーミング』、『オーラルヘルスケア』、オーディオ製品などの『ライフスタイル』という3つのカテゴリーで商品を展開してきたが、新たに『キッチン』を加えた4つのカテゴリーを柱にビジネスを展開していく。ノンフライヤーは油を使わずに揚げ物ができる画期的な商品だ」と自信を見せる。
さらに、同社コンシューマーライフスタイル事業部 マーケティング部の堤雅夫部長は「健康志向の高まりを見せている一方で、日本人はフライドチキンや唐揚げ、とんかつ、コロッケなどの揚げ物が大好き」という。
「調査によると日本人の約65%の人が週2回以上揚げ物を食べている。ノンフライヤーは、子どもに大好きな揚げ物を食べさせてあげたい、でも健康が心配というお母さん方のジレンマを解決する商品だ」(堤氏)
ノンフライヤーは「エアフライヤー」という名称で、2010年9月に欧州で発売された製品だ。2011年後半からはアジア諸国にも販売を広げ、中国や韓国、台湾、香港などで人気となっている。現在は世界40カ国で販売されており、累計販売台数は100万台を突破したという。
健康志向、内食志向の高まりに勝機を見い出す
ここ数年「内食ブーム」といわれているが、総務省「家計調査」によると総世帯における内食支出の比率はここ数年でほとんど変化はない。しかし単身世帯の食費における内食支出は2004年の約31.7%から2011年の約35.3%へと増加しており、外食支出は2004年の38.8%から2011年には31.8%と減少傾向にある。
折からの不景気感や、健康志向の高まりなどさまざまな要因が挙げられるが、数字としても内食・中食志向の実態が見て取れる。
こうした追い風を受け、調理家電の販売状況も上向いているようだ。GfKジャパンによると、電子レンジの販売状況はここ数年右肩上がりで、価格の安い単機能レンジと過熱水蒸気機能を持つスチームオーブンレンジの二極化傾向にあるという。単機能レンジはシリコンスチーマーやタジン鍋などの調理器具がトレンドになっていることも人気の要因となっているようだ。
前出の内閣府「食育の現状と意識に関する調査」(2010年度)では、油を多く使った料理(揚げ物や炒め物など)を1日に2回以上食べる日が週に2回以上あると答えた人が全体(2936人)の約65.3%に上っており、日本人の“油好き”がうかがえる。一方で同調査では、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予防や改善のために食事や運動などを実践していると答えた人が約38.3%に上っている(2011年11月調査では約46.5%にアップ)。
「揚げ物や炒め物は好きだけど、健康にも気を使わなければいけないと自覚しており、実際に気を使っている」というのが多くの人の意識なのだろう。
フィリップス エレクトロニクス ジャパン コンシューマーライフスタイル事業部 マーケティング アシスタントマネージャーの増田智美氏は、「揚げ物が好きな日本人向けに揚げ物のレシピを多く提供している」と語る。
「欧州などではシンプルに肉を焼くレシピやキッシュのレシピ、アジアでは春巻きなど、地域の食生活に応じたレシピを提供している。製品に同梱されるレシピのほかにウェブサイトでもレシピを随時追加する予定で、ほかの地域で展開しているレシピの紹介なども検討していく」(増田氏)
十分に“揚げ物感”を発揮 ピザなども焼ける
実際に気になるのは使い勝手と揚げ物の出来上がりだろう。油を使わないため、油を使うフライヤーと違って手入れはラク。バスケットは丸洗いが可能となっている。温度設定やタイマー設定もシンプルなので、レシピさえあれば誰でも簡単に調理できるだろう。
発表会場では、実際にノンフライヤーで調理した鶏の唐揚げやとんかつ、ポテトフライ、ピザ、ラスクを試食できた。
鶏の唐揚げは油で揚げたようなサクサク感というよりも、ちょっとパリッとした感覚。決して悪くはないが、レシピに自分なりの工夫が必要かもしれないという印象を受けた。
とんかつに関しては、かじったときの油がジュワッとする感覚はない。しかし衣はサックリと仕上がっており、油で揚げたものに対して味が落ちるという感じは全くなかった。“油好き”には揚げ油の味がしないため物足りないかもしれないが、「ヘルシーに揚げ物を楽しめる」メリットは大きい。
ポテトフライは油を使っていないとはにわかに信じがたいほどで、かなりの驚きだった。味は油で揚げたものに対して全く遜色なく、素手でつまんでも手に油が付くこともない。ポテト自身のカロリーも気にすべきだろうが、ポテトフライ好きにはもってこいではないかと思う。
ピザやラスクなど「焼く」工程についても、文句のない仕上がり。もともとコンベクションオーブン(熱風を循環させるオーブン)のような仕組みなので、焼く工程はお手の物といった感じだ。
子育て家庭に最適!?
油なしで“揚げ物”ができる画期的な調理器具だが、予想実売価格2万9800円という価格と、設置スペースがヒットの分かれ目となるだろう。
最近では過熱水蒸気調理ができるスチームオーブンレンジが低価格化しており、3万円前後で購入できるモデルもある。電子レンジ、オーブン、グリル、スチーム、過熱水蒸気調理と多数の機能を持つスチームオーブンレンジと比較してしまうと、ちょっと割高感は否めない。
2013年2月6日に行われた発表会にはノンフライヤーのイメージキャラクターを務めるモデルの中林美和さんとモデルでタレントの神田うのさんが登場し、トークイベントも行われた。そのなかで、子どもを育てる母としての側面も持つ中林さん、神田さんとも「子どもがいると危険なので揚げ物ができない」と語っていた。
揚げ物の油は160度や180度、200度といった高熱になるため、煮物や炒め物などの調理に比べてはるかに危険度が高い。小さな子どものいる家庭では、キッチンに入れないようにフェンスを配置するなど、細心の注意をを払わないと揚げ物調理はしづらいというのはたしかだ。
しかもノンフライヤーは温度と時間を設定すれば、調理完了までしばらく放っておくことができる。その点はオーブンレンジなども同じだが、揚げ物(に近い料理)を安心して“時短調理”できるのは、子育て家庭には大きな魅力かもしれない。
もう一つ、報道陣から質問されていたのが「デザイン」と「サイズ」だ。ノンフライヤーは欧州やアジアなどで展開しているモデルを日本向けに調整して発売するが、デザインやサイズは他国のモデルと同じ。日本の調理家電で主流のホワイトではなくブラック1色で展開し、サイズは幅28.7×奥行き38.4×高さ31.5cmとなかなか大きい。狭い日本の住宅事情では、ちょっと気になる大きさであることはたしかだ。
その点について前出の堤氏は次のように語る。
「ハイエンド電子レンジに比べるとかなり小型で、炊飯器程度の大きさだ。キッチンに常に設置することを想定しているが、ホットプレートのように使うときだけ出す方法もある。若干大きいという印象を持たれるかもしれないが、『この大きさでこういう調理ができるというのはいい』と好評をいただいている。サクサク感を出すためにはこの大きさが必要になるが、女性でもしまうことができる重さになっている」
前出の増田氏は「もっとスリムなデザインを求める声もいただいている。今後は日本にあったホワイトなどのカラーやさらなるコンパクト化なども検討していきたい」と語った。
by日経トレンディー