アジア主要都市が「日帰り往復圏」になる日

 三菱航空機の国産小型ジェット機「MRJ」の初飛行が2013年中にも見込まれるなか、それに続けと次世代航空機の開発構想が急浮上している。日本とアジアの主要都市を2~3時間で結ぶ小型の超音速旅客機(SST)を20年ごろまでに実用化しようという構想だ。英仏が共同開発した「コンコルド」が10年前に退役した後、SSTの研究は世界的に足踏みが続いてきたが、ここにきて米欧でも開発熱が高まる。なぜいまSSTが注目されるのか。

■ビジネスや観光の新たな市場開拓も
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国産超音速ビジネスジェットでアジア富裕層らの需要を見込む(SKYエアロスペース研究所がまとめた概念設計案、同研究所提供)
元宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事の坂田公夫氏らが公表した超音速ビジネスジェット機の設計案が、航空関係者の関心を集めている。坂田氏はJAXAで「日本版スペースシャトル」の研究に長く携わり、退職後の12年、民間組織の「SKYエアロスペース研究所」(東京・新宿)を設立。重工各社や大学から有志の技術者ら約30人を集め、SSTの概念設計に取り組んできた。

 「スーパー・スカイ・パートナー」と名付けた設計案によれば、機体は6~12人乗り(パイロットを含む)で、最高速度は音速の1.6倍(マッハ1.6)にあたる時速約2000キロメートル。機体重量を40トン以下に抑え、航続距離6000キロメートル以上をめざしている。翼の形は空気の乱れを抑えて抵抗を減らす「自然層流翼」を採用。いまのビジネスジェットよりさらに細身の流線形で、まさに未来を想起させるデザインだ。

 「JAXAの日本版シャトルの研究で培った空力設計や、ボーイングの最新鋭機787に採用された軽量複合素材など、必要な技術は日本にそろっている。官民が総力を挙げて開発に乗り出せば、7~8年後に初飛行できる」と坂田氏は自信をのぞかせる。国も支援するMRJの次の官民プロジェクトとして、SSTに着手するよう、坂田氏は政府に働きかけを強める考えだ。

 なぜ超音速ジェット機なのか。

 ひとつの理由が、富裕なビジネスマン層の利用など、一定の市場が見込めることだ。最高速度マッハ1.6のSSTなら東京から香港まで片道1時間半、バンコクやシンガポール、ジャカルタなら2時間半~3時間で飛べ、飛行時間はいまの3分の1以下に短縮できる。日本からみてアジアの多くの主要都市が「日帰り往復圏」に入ってくる。

 国際民間航空機関(ICAO)の予測では、アジア・太平洋地域の航空輸送量は今後20年間で3倍以上に増え、世界最大の旅客市場になると見込まれる。経済成長が著しい新興国の富裕層には「時間をカネで買う」ことをいとわない人が多いとみられ、ビジネスや観光などで新たな市場を生む可能性が大きい。災害時の緊急支援などで政府や公的機関の需要も期待できる。「こうした需要を見込んで国産SSTを開発すれば、アジアの成長を取り込める」(坂田氏)

■衝撃波抑える技術に着目
 技術の進歩も大きい。SSTでは衝撃波による騒音が宿命的な課題とされてきたが、それを克服できる見通しが立ってきた。

 衝撃波は、飛行する物体が音速を超えたときに空気圧が変化して生じる波のこと。今年2月、ロシア・チェリャビンスク州に落下した隕石(いんせき)が強い衝撃波を放ち、建物のガラス窓を割って多数の負傷者が出たことで、その威力をまざまざと見せつけた。

 SSTでも衝撃波が地上のガラス窓を割ったり、波が減衰して人の耳に不快に響く「ソニックブーム」が生じたりする。これらは抜本的な解決策がないとされ、1990年代半ば、SSTの開発をめざしていた米航空宇宙局(NASA)は「300人乗り程度の大型機は騒音と燃費効率の低さを克服できない」と断念した。

 だが小型機ならば騒音が少ないうえ、これまでの常識を変える新たな技術も登場している。
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 東北大学流体科学研究所の大林茂教授らは、2枚の翼を組み合わせる「複葉機」方式の低騒音型SSTを提唱している。二等辺三角形の翼を向かい合わせるように配置すると、衝撃波が互いに干渉して打ち消し合う性質に着目。この方式なら理論的にはソニックブームを75%、騒音全体を最大8割減らせるという。大林教授らは15年までに小型模型を使った実験を始め、ビジネスジェットの設計にも応用する考えだ。

 海外でも、米ベンチャーのアエリオン(ネバダ州)が14年にも、最高速度マッハ1.6程度、8~12人乗りのビジネスジェットの製造に着手すると表明。NASAと共同で、今年2月から空力性能などを評価する実験の第2フェーズに入った。欧州連合(EU)も05年、次世代高速航空機の研究開発に2600万ユーロの研究費を投じる計画を始動させた。
 こうした動きをにらみ、世界の航空会社が加わるICAOは19年までにSSTの「騒音許容基準」をつくり、公表する計画を明らかにしている。かつてコンコルドでは騒音や衝撃波の問題から、海の上空を飛ぶとき以外は超音速飛行が禁止された。新基準が定められ、これを満たす機体ならば、超音速飛行の制約が取り払われる。これも米欧などで開発熱が高まる背景にある。

■未知の領域へ踏み出せるか
 国産SSTが大空を飛ぶ日は来るのか。

 もちろん、実用化までの道のりは平たんではない。マッハ1.6の超音速を実現するには、いまのビジネスジェットに比べて3倍以上大きな推力が必要とされ、既存エンジンの高性能化でそれを実現できるのか確証はない。また航空機は様々な技術要素を組み合わせて設計・製造する「究極の擦り合わせ技術」とされる。軽量素材などは日本メーカーのお家芸だが、機体の全体設計となると技術やノウハウの蓄積は十分とはいえない。

 日本にとって未踏の領域になるだけに、研究開発で国の支援も欠かせない。だが航空機分野の国の研究費は減り続け、新型機の開発に欠かせない風洞試験設備の老朽化や、人材の層が薄くなっている問題も指摘されている。

 前の自民党政権時代の06年度、政府は科学技術研究の指針である「第3期科学技術基本計画」(10年度終了)で、宇宙航空分野をスーパーコンピューターなどと並ぶ「国家基幹技術」と位置づけ、次世代航空機に国の研究費がついた時期があった。だが民主党政権下で基幹技術の位置づけは消え、航空分野の研究費は縮小された。

 安倍政権が6月にまとめる新成長戦略で、次世代航空機が再び重点分野に位置づけられ、研究開発は息を吹き返せるか。関係者は固唾をのんで見守っている。

                by日経
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by mimiyori-hansinn | 2013-08-31 09:26 | サイエンス/読書
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