メタンハイドレート実用化の問題点 NO2

 世界のメタンハイドレートは、陸域で数十兆立方メートル、海域で数千兆立方メートル存在すると言われ、これは世界天然ガス確認埋蔵量(145兆立方メートル)の10倍に匹敵し、天然ガス、原油、石炭の総埋蔵量の2倍以上に匹敵すると言われている。さらに、日本周辺でいうと、地質調査所の調査では、南海トラフ、北海道周辺海域に、6兆立方メートルが存在すると言われている。これは、日本の天然ガス使用量の100年分に匹敵する量であり、日本近海は、世界最大のメタンハイドレート量を誇っているといえる。 日本は海洋国家であり、海中に存在するメタンハイドレートの実用化は、日本のエネルギー自給率の大幅な向上やエネルギー外交の切り札としての可能性など多くのメリットをもたらすと考えられる。
 一方、実用化によるデメリットとして現在あげられているのは、探索・採掘にかけるコストに対する採算性という意味でのコストパフォーマンスの悪さの問題や、採取時の事故発生によってメタンガスが空気中に拡散した場合に地球環境を深刻に温暖化させる危険性があるといった問題などがある。
 デメリットであげられている問題については、探索、採掘、運搬、利用の各フェーズにおいて、実用化に向けた試験の繰り返しによる技術革新によって効率化・安全化が進めば解決できる問題が多く、現状燃料資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている日本にとって、日本近海に十分なエネルギー源があるというメリットは、「メタンハイドレート革命」を起こすだけの十分なポテンシャルを秘めているといっても過言ではないと考えられる。

 さて、ここまではメタンハイドレートとはどういうものかということに対する概要について整理した。では、実際にメタンハイドレートの実用化に向けて、現在日本における取り組みではどのような段階なのか。
 2000年に経済産業省にメタンハイドレート開発検討委員会が設置され、国をあげての本格的な研究がスタートした。日本のメタンハイドレート開発計画は以下のようにフェーズⅠ~Ⅲに分けて考えられている。

□ フェーズⅠ(2001~2008年度):調査技術、分解生産技術などの基礎研究
□ フェーズⅡ(2009~2015年度):海洋産出試験の準備と実施
□ フェーズⅢ(2016~2018年度):商業的生産に向けた技術基盤整備

 現在はフェーズⅡにあたり、最近の報告では、2013年3月12日に愛知県沖で世界初の洋上試験採取に成功している。しかし、実際に洋上採取に成功しているものの、まだまだ政府がリスクを取って投資を行い政府主導で開発を進めている段階であり、商業化する段階には至っていない。
 商業化に至らない理由としては、上でデメリットとしてあげた問題が主に考えられているが、それらを解決する上では、回収効率などのコストパフォーマンスの改善や安定採取・安定供給できる確証が得られることが必要になってくると考えられる。

 ところで、冒頭で「シェールガス革命」ならぬ「メタンハイドレート革命」が起こせるか、という視点での考察を試みると述べたが、そのために一度「シェールガス革命」が起きた理由を整理してみたい。
 私見では、アメリカが「シェールガス革命」を起こすことができたポイントとして以下の2点があげられるのではないかと考えた。

① ビジョンと熱意を持った中小採掘業者の継続的取り組みとそれを支えた公的機関の存在があったこと
② ①による技術革新によって、低コストでの安価なエネルギー安定供給が実現できたこと

 ①については、当時すべての石油メジャーが米国に見切りをつけ海外に活路を求めたあとで、少数の中小採掘業者たちがもっぱらシェールガスを商品化するまで継続的に取り組みを進めた。中でも、「シェールガス革命の父」と呼ばれるジョージ・ミッチェル氏が70歳で水圧破砕法を応用したフラッキングという技術をブレークスルーしたことが大きな成功要因と言われている。ただ、ここで忘れてはいけないのは、そのような民間企業を公的機関がバックアップしていたと言うことである。事実、ミッチェル氏の会社も様々な公的機関の支えに頼ってきた。例えば、シェールガスの埋蔵資源地図を作製し(これにより、資源量が豊富であることがはっきりしていた)、ダイヤモンドドリルビットなどの技術開発に助成金を出したのは公的機関である。
 ②については、①の取り組みによる技術革新によって低コストによるエネルギー安定供給が実現し、天然ガスの価格を大幅に低下させることができたことで、アメリカ国内のエネルギー事情を大きく変え、「革命」と呼ばれるに至った大きな要因であると考えられる。

 つまり、公的機関の支えによって、実現に向けて熱意を持った民間企業が継続的に取り組み技術革新を起こしたことで、エネルギーの安定供給と低コスト化を実現し、「シェールガス革命」は起きたのである。

日本における「メタンハイドレート革命」の実現可能性についてはどうであろうか。
 まず、①について、現在は清水建設がメタンガス回収実験をロシアで行っていたり、三井海洋開発がメタンハイドレートを海洋上で資源化するプラントの開発に着手していたり、三井造船が海底下に埋蔵するメタンハイドレートを探査し、賦存状態を把握する技術・システムを開発していたり、三菱マテリアルがメタンハイドレートの基礎試錘・実証実験を行っていたりと大手民間企業が実用化に向けて様々な取り組みを行っている。しかしながら、どれも試験段階であり、回収効率の改善、安全採取・安定供給の実現のためには、今後も政府が民間企業をバックアップして連携し、より積極的に技術革新を進めていく必要があると考えられる。
 また、前段の「シェールガス革命」のケースと比較すると、現在主に取り組みを行っている民間企業は名の通った大企業である。「シェールガス革命」のときは、中小企業であり、ミッチェル氏のようなビジョンと熱意を持ったオーナーがあきらめずに取り組んだことが成功の大きな要因であった。大企業の担当者がメタンハイドレート実用化に向けたプロジェクトに対して、当時のミッチェル氏と同様の熱意を果たしてもっているだろうか。過去を振り返ってみると、アップルのスティーブ・ジョブズ氏にしてもソニーの盛田昭夫氏にしても、偉業を成し遂げたとされる人は、その偉業を成し遂げた先の未来を明確に描いたビジョンを持ち、それに対して自信と熱意をもってあきらめずにやり遂げる力を持った人であった。「メタンハイドレート革命」を実現するためにも、メタンハイドレート安定供給の実現が切り開く未来像を明確にビジョンとして持ち、それに対してあきらめずに熱意を持って取り組む人間の存在が必要であると考えられる。大企業であっても、民間企業としてそのビジョンと熱意を持って取り組めるか、もしくはビジョンと熱意を持ったオーナーをもつ中小民間企業が今後参入してくることができるか、が別の課題としてあげられる。

 ②については、実際に採掘されるメタンハイドレートによる天然ガスの供給は安価なものであるのかという疑問がある。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の経済性評価によると、一定の仮定の下で生産が実現した場合、生産原価は46円/m3になると試算され、2021年から15年間の想定平均ガス価である56円/m3と比較すると、生産原価の方が安くなるという評価をしている。この評価は、あくまでも「仮定」のもとでの経済性評価であり、技術革新によるガス生産レートの増加や回収効率の向上などによって、より確度を高めることになるし、その逆もまた然りである。

 以上2点を踏まえると、現在はまだまだ試験段階で、「メタンハイドレート革命」の可能性を確信できるレベルには至っていないものの、政府と民間企業が継続的に実用化に向けた取り組みをすることによって技術革新を起こすことができ、メタンハイドレートを安全かつ効率的に採取・利用できることで安価で安定したエネルギー供給が実現できれば、「メタンハイドレート革命」を起こすことができると十分考えられるのではないだろうか。 実現に向けた課題として整理すると、政府と民間企業の連携による技術革新が必要であるという前提を踏まえ、政府側は他国との領海権に関する外交や資金援助などを通して民間企業が取り組みに参入しやすい環境の整備を行うことが必要であり、民間企業側は実現した先の未来像に対するビジョンを明確に持ち、それに向けてあきらめずに取り組む熱意と実行力を発揮していく必要があるのではないだろうか。
 「革命」が起きれば、日本のエネルギー自給率が大幅に向上し、自国内の製造業の活性化や「脱原発」運動の推進、エネルギー外交における日本の立ち位置の変化につながっていくことが想像でき、国内外で大きな影響を与えるのは間違いないだろう。引き続き今後の動静に注目していきたいところである。
                    byコンサルティング コラム
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by mimiyori-hansinn | 2013-10-10 05:21 | サイエンス/読書
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